【目的】

内臓脂肪型肥満は,糖尿病や高血圧,脂質異常症などの生活習慣病を合併することが多く,心筋梗塞や脳梗塞の危険性を高めることが知られている.このような病態をメタボリックシンドロームとよぶ.近年,メタボリックシンドロームの予防や改善の食事について,食物繊維,難消化性オリゴ糖をはじめとしたプレバイオティクスを用いた検討ならびに,プロバイオティクスと組み合わせたシンバイオティクスが注目を集めている.本研究では,プレバイオティクスとして水溶性食物繊維に富む大麦を使用し,プロバイオティクスは最適な組み合わせにするために,in vitroで発酵性試験を行って選別した.大麦とプロバイオティクスを配合した高脂肪食をマウスに給餌し,耐糖能,血清および肝臓脂質について分析し,腸内環境改善を介したメタボリックシンドロームの予防や改善に有効な食事の組み合わせを明らかにすることを目的に検討した.

【方法】

発酵性試験は,Clostridium butyricumStreptococcus faecalis Lactobacillus caseiLactobacillus plantarumをグルコース含有のBHI,BHI,GAM,MRS培地にそれぞれ添加し,継代培養した.その菌培養液をデンプン,タンパク質を除去した大麦を添加した培地に移し,2日間培養した.pH,濁度(吸光光度法),有機酸濃度(GC/ MS法)を分析し,発酵度を比較した.

動物実験は,5週齢の雄C57/BL6Jマウスを用い,1群8匹の4群に群分けした.対照群(C群)の飼料はAIN-93G組成を基本とし,脂肪エネルギー比が50%になるよう,ラードを添加した.試験群は,大麦群(B群,プレバイオティクス),L.plantarum 284株群(P群,プロバイオティクス),大麦とL.plantarum 284株の組み合わせ群(BP群,シンバイオティクス)とした.各群の総食物繊維量が5%になるようにセルロースで調整し,L.plantarum 284株は2%配合してコンスターチと置換した.12週間の飼育期間中は,飼料と水を自由摂取させ,体重と飼料摂取量を測定した.耐糖能試験(OGTT)は,8時間絶食後,20%グルコース溶液を1.5g/1kg体重となるようにマウスの胃内に投与し,尾部より経時的に血糖値を測定した.また,時間と血糖値の曲線からAUC(曲線下面積)を算出した.解剖時は8時間絶食後,イソフルラン/CO2麻酔下で安楽死させ,心臓より採血,肝臓,盲腸,後腹壁脂肪,副睾丸周辺脂肪,腸間膜脂肪を摘出し重量を測定した.採取した血液は血清を分離し,トリグリセリド,総コレステロール,NEFA,グルコース濃度を酵素法にて分析した.肝臓脂質は,Folch法により脂質を抽出後,トリグリセリドとコレステロール濃度を酵素法にて分析した.糞中脂質は,Folch法により脂質を抽出後,重量法で分析した.盲腸内有機酸濃度は,クロトン酸を内部標準としてGC/MS法にて分析した.盲腸内細菌叢は,DNAを抽出後,門レベルについてリアルタイムPCR法で分析した.

【結果・考察】

発酵性試験において,pHの低下,濁度の上昇,有機酸の生成が著しく認められたLactobacillus plantarumを選定した.本実験では、Lactobacillus plantarum 284株(エイ・エル・エイ乳酸菌研究所より分与)を用いて動物実験を行った.

動物実験では,二元配置分散分析の結果で交互作用が見られた項目,及びC群と比較してBP群のみで有意差が見られた項目をシンバイオティクス効果が認められた項目とした.終体重と体重増加量は,C群と比較してBP群で有意に低下した.盲腸内有機酸濃度の結果,酢酸,プロピオン酸,総短鎖脂肪酸濃度において,C群と比較してBP群で有意に増加し,シンバイオティクスにより盲腸内発酵が促進されることが示された.耐糖能試験の結果,糖負荷後15分~120分後の血糖値において,C群と比較してBP群で有意に低値を示した.シンバイオティクスにより食後血糖値の上昇を緩やかにする効果があると考えられた.血清NEFA濃度では,交互作用が見られたが,群間差は検出されなかった.肝臓脂質の結果,トリグリセリドとコレステロール蓄積量において,C群と比較してBP群で有意に少なかった.糞中総脂質排泄量は,C群と比較してBP群有意に増加し,見かけの消化吸収率は,C群と比較してBP群で有意に低下した.シンバイオティクスにより生成された短鎖脂肪酸により,脂質の吸収・輸送系の抑制または肝臓脂質の分解系が亢進された可能性が考えられる.盲腸内細菌叢の結果,総腸内細菌数がC群と比較してBP群で有意に増加しており,中でもBacteroidetes門の増加が確認され,Fermicutes門/Bacteroidetes門(F/B比)が有意に低下したことから,菌の構成が変化したことが示された.

以上の結果,食餌性肥満モデルマウスにおいて,腸内発酵の促進と腸内細菌叢の変化が起こり、体重、耐糖能、血清及び肝臓脂質において,シンバイオティクス効果が検出されたことから,大麦とL.plantarum 284株の組み合わせ摂取は,メタボリックシンドロームの予防や改善に有効である可能性が示された.