【方法】

使用菌株と培養法
使用したO157(YMH株)は感染研・細菌部田村博士より分与された。使用培地はTrypticase soy broth(BBL)を一部変更して使用し、有機酸添加後pH修正し、濾過滅菌した。嫌気培養はスチール法で行った。

菌濃度と毒素価の測定
小試験管を使用して、試験培地への摂取後(原則として菌量2×105個)、37℃で24時間静置培養した。菌濃度は650nmにおけるO.D.を測定し、ヴェロ毒素価は逆受身ラテックス凝集法(大腸菌ヴェロトキシン検出用キット:デンカ生研)により測定した。

【成績および考察】

〈O157の発育〉対照の塩酸修正培地にたいして、酢酸、プロピオン酸、および酪酸は強い発育抑制を示し、プロピオン酸が最も発育抑制を示した。乳酸の抑制作用は他の有機酸よりも弱かった。また、有機酸濃度が高いほど、pHは低いほど発育は抑制された。塩酸pH4.2では発育は強く抑制され、pH4.7では発育がみられた。乳酸酸性および塩酸酸性培地(pH5.5-7.4)での発育は、好気性培養に比較して嫌気性培養で抑制された。発育抑制作用の弱い有機酸濃度およびpH条件化では、好気性に比較して嫌気性培養での発育が悪く、発育抑制作用の強い条件化では好気、嫌気の発育の差が小さい傾向が認められた。
〈毒素産生〉ヴェロ毒素1型、2型ともに毒素価は菌発育の程度とほぼ比例的であったが、有機酸のなかではプロピオン酸が毒素産生をより強く抑制する傾向がみられた。本成績は胃、大腸内のpHあるいは酸濃度が、O157の発育と毒素産生に影響することを示している。このことから、大腸内の発酵を亢進させて腸内の有機酸、特にプロピオン酸生成を高め、pHを低く保つことがO157の増殖を抑制し、感染に抑制的に働くと考えられた。また胃酸の希釈を避けることも感染予防につながると考えられた。
(菌株分与してくださった田村博士に深く感謝いたします。)