【目的】

歯周病は、プラーク中のPorphyromonas gingivalisなどの歯周病原菌が原因となって発症する。急性症状を示す場合、抗菌薬が投与されるが、薬剤耐性菌の出現やアレルギーなどの問題がある。そこで代替療法として、近年、プロバイオティクスの効果に関する研究が行われている。しかし、歯周病に対するプロバイオティクス菌の抑制効果の基礎的なメカニズムについては明確に解明されていない。歯周病原菌に対するプロバイオティクス菌の抗菌メカニズムを解明するために、私たちは、スクリーニングした乳酸菌50株中P.gingivalisに対する最も強い抗菌活性のあるLactobacillus fermentum ALAL020によって産生された抗菌物質の同定を行った。

【方法】

MRS液体培養上清は、中和後、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーと逆相HPLCによって精製した。精製物質の分子量と構造は、LC/MS/MS、FT-IR、NMRにて分析した。

【結果】

L. fermentum ALAL020によって産生された培養上清中の主な抗菌物質は単一ピーク分画として精製され、その分子量(m/z)は、226.131であった。この低分子化合物をLC-MS分析したところ、組成式はC11H18O3N2であると明らかになった。この化合物のIRスペクトルから、アミノ基とカルボキシル基を含まないことが示された。また、Photodiode Array DetectorによるUV-VIS吸収スペクトルから、240 nm以上の領域に吸収がなかったため、ベンゼン環のような共役系を持たないと考えられた。そこで、NMRでの構造解析を行ったところ、環状ジペプチドのhexahydro-7-hydroxy-3-(2-methylpropyl) pyrrolo[1,2-a]pyrazine-1,4-dioneであることが明らかとなった。

【考察】

私たちはL. fermentum ALAL020によって産生されたP. gingivalisに対する主要な抗菌物質を精製し、同定した。この物質は、今までにプロバイオティクス菌が産生しているという報告は見当たらない。今回の分析結果は、今後の抗菌メカニズムの解明につながると考えられ、また歯周病予防のために応用できる可能性が期待できる。