【目的】
近年,乳酸菌,ビフィズス菌等を用いた豆乳発酵物がヒトの健康の維持増進を目的に広く用いられており,腸内環境の改善,乳がんや大腸がんの抑制,血圧調整,糖尿病改善など多くの健康効果を有することが報告されている1).特に,腸内環境の改善に関しては腸内有用菌の増殖促進,有害菌の増殖抑制,また腸内代謝産物の有機酸濃度の上昇等が報告されている.しかし,これまでの解析法は属レベルの変動を調べたにすぎず,菌種レベルの変動については報告が少ない.腸内細菌を網羅的に解析し,腸内細菌の多様性とヒトの健康効果に関して示されたデータは少ないのが現状である.そこで,次世代シーケンサー(NGS)を用いて解析することにより,豆乳乳酸菌発酵物が腸内細菌叢の多様性に与える影響を解析すると同時に,ガスクロマトグラフィー・質量分析装置(GC-MS)を用いて腸内代謝産物を測定し,腸内細菌叢の変動との関連を詳細に検証することが最終目標である.
大腸で作られる食物繊維や難消化性オリゴ糖など腸内細菌が分解して作り出す短鎖脂肪酸は近年,エネルギー源としてだけではなく,健康を維持する多くの生理作用を有することが知られている.その働きは肥満抑制,血糖値調整,がん細胞の増殖抑制,アレルギー抑制など多岐にわたり,中でも短鎖脂肪酸の1つである酪酸は免疫調整をつかさどるTreg細胞を増やすことからも特に注目されている2).現在酪酸をはじめとした短鎖脂肪酸産生菌が数多く同定されつつある.そこで今回,男女ボランティア16名から提供された糞便を用いて,腸内細菌叢と短鎖脂肪酸の関係について検討した.
【方法】
2.1 NGSによる糞便中細菌叢解析
健康な7歳から80歳までのボランティア男女16名(平均年齢55.5歳,男女比8(46.1歳):4(62.9歳)を対象とし,ボランティアには食事やサプリメント飲用の制限は行わなかった.採取した糞便は,「QIAamp DNA Stool Kit」(QIAGEN社)を用いてプロトコールに従いDNAを抽出した. NGS解析は口腔常在微生物叢解析センター(香川県高松市)に依頼し,16S rDNA のV3-V4領域をMiseq (イルミナ株式会社) にて解析した.
【結果】
1糞便中細菌叢解析結果
組成比率の高い属としてバクテロイデス,プレボテラ,ルミノコッカスの3属が観察された。腸内細菌叢は常在菌の分布の違いによる分類がなされており,その分布は性別や人種には左右されず食習慣が影響することが知られており,バクテロイデス,プレボテラ,ルミノコッカス属の3つのエンテロタイプに分けられるとの報告がある3). 今回の結果から3属の組成比を算出するとバクテロイデス属優勢タイプ,プレボテラ優勢タイプのおよそ2群に分けられ,ルミノコッカス属は検出例においても他より劣勢であった.
2糞便中有機酸分析結果
糞便中の有機酸量を図3に示す.各例とも9割以上が酢酸,プロピオン酸,酪酸で占められ,その比はおおよそ2:1:1であった.
3糞便中の短鎖脂肪酸量と腸内細菌との相関
バクテロイデス,プレボテラ,ルミノコッカス属はいずれも短鎖脂肪酸産生菌を含むとされているが,種まで同定がなされているものは少ない.そこで,属レベルで短鎖脂肪酸量との相関性をみたところ,ルミノコッカス属の占有率と短鎖脂肪酸量に有意な相関(P<0.05)が認められた(図4).バクロイデス,プレボテラ属では有意差な相関は認められなかった.
一方, 短鎖脂肪酸産生菌として同定されている菌種としてFaecalibacterium prausnitzii4), Prevotella copri5) の2菌種が報告されている.図5にこの2菌種の合計占有率と短鎖脂肪酸量の相関図を示すが,相関の傾向は見られたが有意な差は認められなかった.